【特集】トム・クルーズの新たなヒーロー像「ジャック・リーチャー」とは何者か

トム・クルーズ主演のサスペンス・アクションシリーズ第2弾『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』が11月11日(金)より全国公開中だ。2012年公開の前作『アウトロー』から一転、タイトルを原作に合わせて「ジャック・リーチャー」と変更し、『ミッション:インポッシブル』シリーズと並んで、トム・クルーズがシリーズを背負うことを決めた野心作である。

ジャック・リーチャー
『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』 ©2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

今回は、「ジャック・リーチャー」とは何者なのかという点から、前作『アウトロー』のエピソードに触れ、『ミッション:インポッシブル』シリーズと対比しながら、『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』そのものの魅力を掘り下げていく。

法も証拠も無視 己の正義にのみ生きる男:ジャック・リーチャー


「ジャック・リーチャー」とは何者なのか。まず、本シリーズは、全世界1億ドルを売り上げたリー・チャイルドによる小説の映画化である。主人公であるジャック・リーチャーは、陸軍在籍時に数々の勲章を授与されたエリートで、米軍憲兵隊捜査官時代に捜査・取り調べの能力を磨き上げた退役軍人だ。

ジャック・リーチャープレゼント
『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』 ©2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

捜査官時代の習慣が染み付き、決まった住所やクレジットカード、携帯電話すら持たず、事件が解決すると行方をくらませるため、人とも深く関わらない。法も証拠も信じず、ただ悪にのみ鉄槌を下して“アウトロー”な放浪の旅を続ける生き方から、その道で”ゴースト”と呼ばれている。この男が、唯一心に刻み込んだのが正義である。

前作『アウトロー』のあらすじ・キャスト


スナイパー・ライフルによる遠距離からの無差別殺人事件が起こる。容疑者となった元狙撃手の男は「ジャック・リーチャーを呼べ」というメモを提示したのみで、黙秘を続ける。刑事や検察官が調べても、足取りが一切掴めなかったジャック・リーチャーが突如姿を現すが、退役後の彼には何の権限もない。そこでリーチャーは容疑者側の弁護士ヘレンと組み、事件の真相を追うことになる。

ヘレンを演じるのはロザムンド・パイク。『ゴーン・ガール』(14)で世界中に強烈な演技を見せつける約2年前であり、トムは「彼女は古典的美しさのある女性だ。知性を感じさせ、複雑な心情を表現できる。彼女が演じると、そのキャラクターがより魅力的になるんだ」と当時から絶賛している。その他、ジェイ・コートニーやデヴィッド・オイェロウォといった若手注目俳優や、監督としても世界的評価の高いヴェルナー・ヘルツォーク、そして『デイズ・オブ・サンダー』(90)以来のトムとの共演となるロバート・デュバルといったキャストが脇を固める。

サスペンスとアクションを描かせれば間違いなし!原作ファンが制作


アウトロー』『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』でトム・クルーズは主演の他に、製作およびアクションシーンなどの脚色まで手がけており、『ミッション・インポッシブル』などと同様、スタントも自ら務めている。

アウトロー』で監督・脚本を務めるのは、『ユージュアル・サスペクツ』(95)の脚本家として知られ、『ワルキューレ』(08)、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(14)、『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネーション』(15)と、何度もトムと組んできたクリストファー・マッカリーだ。

(C)2012 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
『アウトロー』 ©2012 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

監督・脚本・製作・主演とも、これだけでサスペンス、アクションの名手が揃ったと言えるが、それだけではない。「全作をそれぞれ最低2回は読んでいる」と豪語するほど原作ファンのドン・グレンジャーが、プロデューサーとして本作を企画している。彼は『M:i:Ⅲ』(06)製作中のトムに話を持ちかけ、トムもすぐさまファンになった。トムは当初、ファンであるからこそ、原作のジャック・リーチャーが大柄だという体格の違いで、他のファンを落胆させるのではと不安になったそうだが、原作者がトムをジャック・リーチャーとして認め、喜んで主演を引き受けることにしたそうだ。

監督・脚本のクリストファー・マッカリーへはトムから声をかけ、彼もまたジャック・リーチャーに惚れ込んだという。このように、作り手側も原作の大ファンになって製作するというのは、世界中で人気のシリーズの映画化ならではと言える。原作としては第9作だが、著者のリー・チャイルド曰く、「ジャック・リーチャーの紹介に丁度いい。アクションも満載で、彼の魅力も何もかも全て描かれている」と太鼓判を押す作品だ。

無骨な「ジャック・リーチャー」のアクションとは


アウトロー』における体術アクションは、近年のアクション映画の主流派とは異なり、しっかり訓練された軍隊格闘術のような戦い方ではなく、リアルで乱暴なスタイルを目指している。そのため、ワイヤも使わず、極力カメラワークのカット割りに頼らないよう、アクションに編集も施していないのが特徴である。

ジャック・リーチャー
『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』©2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

ここで用いられているのが、KFM(キーシ・ファイティング・メソッド)と呼ばれ、肘や膝を使った動きが特徴的なスペイン生まれの護身術である。以前は『ダークナイト』三部作などでも用いられてきたが、今作はよりKFM独特の動きが分かりやすい映像となっている。

加えて、この格闘技における「自分の領域を侵す者は殺す」という信念が、躊躇うことなく敵を痛めつけるジャック・リーチャーにも合っており、より映像にリアリティを持たせている。トムは2〜3カ月かけて、時には深夜24時から訓練を受け、振りだけではなく実際にKFMを使って戦えるレベルまで習得したそうだ。

また、マッカリー監督の兄が元ネイビー・シールズのため、銃器テクニカル・アドバイザーとして本作に参加し、銃撃戦での戦術やアドバイスなども行なっている。出演者で銃を持つ者は全員射撃訓練を受けるという徹底ぶりだ。

こうしてとことんリアリティを突き詰めることによって、実際のストリート・ファイトのような乱闘、説得力のある銃撃戦という無骨なアクションが生まれるのである。それでいて不快感を与えないのは、その際どいラインをトムらが考慮しユーモアも加えながら作り上げているからだ。

『ミッション:インポッシブル』との違い


トム・クルーズといえば、『トップガン』(86)でトップスターの仲間入りを果たした俳優だ。その端整なルックスだけでなく、『7月4日に生まれて』(90)や『ザ・エージェント』(96)、『マグノリア』(99)と、アカデミー賞ノミネートやゴールデン・グローブ賞受賞により、演技力も兼ね備えた俳優として知られている。

しかし、やはりトムの代表作として一番に挙がるのは、製作も務める『ミッション:インポッシブル』、そしてその主人公であるイーサン・ハント役である。自ら飛行機も操縦し、通常ならばスタントマンを立てるような危険なスタント、カーアクションも自らこなす運動神経と度胸をもち、度々メディアを賑わせている。昨年公開の『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』冒頭の、実際に飛んでいる飛行機のドアに捕まるシーンは世間の度肝を抜いた。

ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション
『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』 ©2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

そんなトムの代表作である『ミッション:インポッシブル』、そしてイーサン・ハントと今回の「ジャック・リーチャー」はどういった点で異なるのだろうか。

①アナログな一匹狼
イーサン・ハントがIMF(ミッション・インポッシブル・フォース)のリーダーとして、チームの面々と任務を遂行するのに対し、ジャック・リーチャーは人との深い交流を避ける一匹狼である。

また、イーサンがベンジー(演:サイモン・ペッグ)が作るような最新のガジェットを使ったり、毎度お馴染みの変装マスクを被ったりするのに対し、ジャックは携帯すら持たず、銃撃戦にサバイバルナイフ一本で挑むことすらあるアナログっぷりだ。

ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション
『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』 ©2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

②自由な退役軍人
イーサン・ハントが諜報員であるのに対し、ジャック・リーチャーは元エリート秘密捜査官ではあるが、現在は除隊して無職のまま、退役軍人として年金生活を送っている。作中で何度か「自由」という言葉に触れるシーンがあるが、彼がクレジットカードや携帯電話などを持たず、恋人も友人も作らないようにしているのは、捜査官時代の習慣が抜けないからだけではない。そうした世間のしがらみから解放され、世捨て人のように自由に生活することが性に合っていることも理由だろう。

③ハードボイルドな雰囲気に合う寡黙さ
トムの演じる役で多いのが、腕があるゆえに時に不遜とも言える態度を取るが、根は良い男というキャラクターだ。イーサン・ハントも例にもれず、軽口を叩いたり、その自信が仇となってしまうこともある。しかし、ジャック・リーチャーはと言えば、無駄に口を開かず、冷静に考えを巡らせる寡黙なキャラクターである。どちらかと言えばマット・デイモン扮するジェイソン・ボーンに近いとも言える。

ジャック・リーチャー NEVER GO BACK
『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』 ©2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

その思慮深さは、原作でほぼ毎巻登場し、ファンの間でも有名だという”Reacher said nothing.”(リーチャーは黙っていた。)の一文に集約されている。この寡黙さが、一匹狼で、法で裁けない悪に制裁を下す男という、ハードボイルドなストーリーに合っているのだ。

ジャック・リーチャー
『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』来日記者会見でのトム・クルーズ

しかし、何も喋らないという訳ではなく、ユーモアも作品の随所に散りばめられている。この点についてトムは「僕たちが笑ったのと同じ場面で観客がより大声で笑い、作品にのめり込んでいる姿を目にする。それが最高に嬉しい瞬間なんだ」とこだわりを語っている。

“法が裁かなくとも俺が裁く”『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』の見どころ


今回の『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』は、シリーズの中でも評価の高い第18作を原作として描く。監督と脚本を兼任するのは、『ブラッド・ダイヤモンド』(06)や『ディファイアンス』(08)で知られ、トムとは『ラスト サムライ』(03)以来のタッグとなるエドワード・ズウィックだ。ズウィック監督と共に脚本を務めるマーシャル・ハースコビッツも、同じく『ラスト サムライ』以来である。また、前作で監督・脚本を務めたクリストファー・マッカリーは製作として携わっている。

ジャック・リーチャー
『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』 ©2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

ストーリーとしては、陸軍でジャックの後任だったスーザン・ターナーが、スパイ容疑で逮捕されたところから事件が始まり、過去の同僚が次々と殺されていく。そしてジャックと何やら因縁のある少女サマンサも加わり、事件も国家的な陰謀へと広がっていくという様を描く。

スーザンを演じるのは『アベンジャーズ』シリーズのマリア・ヒル役で知られるコビー・スマルダースで、「HEROES Reborn ヒーローズ・リボーン」のダニカ・ヤロシュ、「プリズン・ブレイク」のロバート・ネッパーら、海外ドラマスターらも脇を固める。

更にワイルドでありながら人間味を見せるジャック・リーチャー、よりハードなアクション、大スケールで描かれる事件と、今回もますます骨太なサスペンス・アクション大作として期待が高まる。

映画『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』は大ヒット公開中

【CREDIT】
出演:トム・クルーズ、コビー・スマルダース、ダニカ・ヤロシュ、ロバート・ネッパー ほか
監督:エドワード・ズウィック
製作:クリストファー・マッカリー、トム・クルーズ、ドン・グレンジャー
配給:東和ピクチャーズ 公式サイト:jackreacher.jp

©2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

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