「映画の面白さを思いきり出したかった」――黒澤明が本気で娯楽に挑んだ最高峰の傑作『用心棒』を4Kで堪能する
「午前十時の映画祭16」にて、昨年の『七人の侍』に続き、4Kデジタルリマスター版で鑑賞しました。 巨匠・黒澤明監督が、前年公開の『悪い奴ほどよく眠る』の興行的失敗を挽回すべく、徹底してヒットを狙い、目論見通り大ヒットを記録した日本映画史上… 続きを読む
「午前十時の映画祭16」にて、昨年の『七人の侍』に続き、4Kデジタルリマスター版で鑑賞しました。 巨匠・黒澤明監督が、前年公開の『悪い奴ほどよく眠る』の興行的失敗を挽回すべく、徹底してヒットを狙い、目論見通り大ヒットを記録した日本映画史上最高峰の娯楽エンターテインメント作品です。 「映画の楽しさ、面白さを思いきり出したかった」と監督が語る通り、『七人の侍』などに見られる緻密な時代考証にあえてこだわらず、理屈抜きに痛快かつ当時としては斬新な剣術アクションの新機軸を打ち出しています。時に喜劇的要素も交えつつ、狙い通りに大ヒットへと導いた手腕には本当に敬服させられます。 ダシール・ハメットの『血の収穫』を下敷きにしつつも、脚本は黒澤監督と菊島隆三氏の共作です。 まるで『七人の侍』の菊千代が生き残って全国を放浪しているかのような豪胆さと、知略に富みながらも「情のもろさ」をひた隠す桑畑三十郎(演:三船敏郎)という、圧倒的な魅力を持つヒーローを創出した点はまさに白眉と言えます。三船氏の浪人侍がそのままタイムスリップしてきたかのような見事な殺陣と息遣い、何よりも大スクリーンに映える圧倒的な存在感は唯一無二です。 さらに、敵役である新田の卯之助を演じる仲代達矢氏も、独特のぎらついた眼光でニヒルかつクールな悪漢を体現し、三船氏に全く引けを取らない存在感を放っています。 その他、居酒屋の権爺役の東野英治郎氏をはじめ、山田五十鈴氏、土屋嘉男氏、河津清三郎氏、加藤大介氏、沢村いき雄氏、山茶花究氏、さらに1分足らずの短い出演ながら西村晃氏、加藤武氏、藤田進氏、中谷一郎氏、天本英世氏……と、黒澤組の常連や東宝専属の名優たちが総登場します。監督が「あてがき」したことが確信できるほど適役が揃っており、日本映画全盛期の、ただ容姿が整っているだけではない「個性派・実力派俳優陣の層の厚さ」には脱帽するほかありません。今のTVドラマや邦画では、ここまでの個性的なキャスト陣の配役は想像できません。 ストーリーを監督自ら執筆している強みゆえか、脚本と映像が実にシームレスに噛み合っています。 たとえば、宿場町の跡目争いの経緯を、テロップを使わず権爺や番太の半助に説明っぽくなく自然に語らせたり、映像面でも野良犬が刀で切られた手首をくわえて歩いてくるショットだけで町の異常さを一発で表現したりと、その演出は実に巧みで娯楽性に富み明快です。 セットは基本的に宿場町のみで、大掛かりな城や馬も登場しないため、『七人の侍』などに比べればスペクタクルな要素は控えめです。しかし、監督が得意とする土砂降りの大雨や、セスナ機を利用した「上州のからっ風」の突風など、背景そのものにも芝居をさせることで、十分な大作感を感じさせてくれます。 今回4Kデジタルリマスターにて鑑賞しましたが、より白と黒、光と闇のコントラストが強調されており、当時あえてモノクロ映画に挑み続け、究極の完成形を提示したことがうかがえます。 本作品はカラーでも十分楽しめますが、モノクロこそが本作の真骨頂です。 公開から65年以上が経過。 希代の名監督が本気を出した娯楽エンタテインメント作品で、これほどの傑作にはなかなかお目にかかれません。 巨匠の古典的名作となると難解で堅苦しいと敬遠される方も多いかもしれませんが、騙されたと思ってぜひ鑑賞してほしいですね。