ゆっくりと。じんわりと。染みてくる。
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想像よりよかった。ずっとずっとよかった。 ゆっくりと物事は進む。登場人物の心も静かに、ただ確かに揺れ動く。 ラストレターは卒業式のスピーチだった。 同窓会で未咲の声を聞いて、祐里と乙坂が高校時代に巻き戻される。そこから物語が始まる。 乙坂は初めから未咲じゃないと気付いていたから、祐里の手紙ではなく、実家に手紙を出した時帰ってきた手紙に返事を書いた。 鮎美も初めて乙坂の手紙を見たときすぐわかった。 お母さんがずっと大切にしていた手紙の人、『未咲』という小説を書いたあの乙坂だと。 予告編にもあるけど、あの表情。あの表情ができるのが広瀬すずの凄み。 鮎美と颯香が犬を散歩しているシーンは凄く綺麗だった。煌びやかで透明に光るようだった。 乙坂もそんな2人を撮っておきたかったのかもしれないなあ。 豊川悦司と福山雅治のシーンも良かったな〜。 それまで日の光が差し込む、明るくキラキラした世界から一転、薄暗い路地の中にある安居酒屋の隅で無精髭を生やした阿藤と20年ぶりに向かい合う乙坂。 未咲を失ったのは阿藤のせいだと煮えたぎる心中を隠しきれず阿藤に凄むが、あっさりと俺のせいだとのたまう阿藤にやるせない、行き場のない空虚な気持ちが押し寄せるよう。 すごく綺麗な対比だった。そりゃ汚くみえるよな。 本編には、いくつも青春のかけらが散らばっていて観ているこちらも胸が締めつけられるようだった。 遠目でしか観ていなかった未咲がマスクを取った時の乙坂。いいシーン。その一瞬で恋に落ちる。 姉のことが心底好きだと分かっていても抑えきれない想いをついには勇気を持って手紙で告白する祐里と思いもよらぬ不意打ちを受けた乙坂。うっすらと恨めしそうにも見える涙を浮かべた祐里。いいシーン。まさに青春の儚さ。 夜のプールで花火をしながら学校に行きたくないという颯香。いじめとかが理由かと思いきや隣の席の男の子が好きで恥ずかしいから学校に行きたくないだなんて。淡い。脆い。彷徨の時期。 ラブレターのことは互いに知っているのに卒業式のスピーチ一緒に考えてよと未咲に言われ躊躇する乙坂だが、ラブレター書いたんでしょ、と言われるシーンはなんとも言えない。羞恥心。でも、一緒にスピーチを考えてそれがまた運命を手繰り寄せることになる。 あと、1ヶ月、2ヶ月早く来てくれてれば。 未咲に会えたのに。未咲を救えたかもしれないのに。 大学時代、阿藤にみすみす未咲を渡さなければこんなことにはならなかったのに。 未咲の死を知ったとき、きっと様々なないものねだりが頭を駆け巡ったに違いない。 それでも、鮎美に会えたこと。 未咲に手紙が、『未咲』がしっかり届いていたこと。 それを読んで宝物にしてくれていたこと。 線香をあげてあげられたこと。 サインをした3冊の『未咲』を手にした人々がこれからも未咲を想っていくことで未咲は生き続けることができる。 『未咲』は、阿藤からのプレゼントなんかじゃない。 乙坂から未咲への、祐里や鮎美への贈り物なんだ。 最後、小説にまた向き合えると思えた乙坂も、学校に行こうと思えた颯香も、もう大丈夫と思えるくらい立ち直っている鮎美も、みんな前を向けた終わり方でよかった。 ゆっくりと、じんわりと、それでも確かに染みてくる。 いい映画だった。 『未咲』読んでみたいな。