素晴らしきかな、人生
※本文にネタバレがあります ネタバレを読む
広告代理店の役員であるHoward Inlet(Will Smith)を悲劇が襲って三年。彼が再起を果たせないまま意気消沈している間に、企業の業績はみるみる悪化していった。他の役員たちは企業の売却を検討するも、同社の筆頭株主は他ならぬHowardその人であった。行き詰まった役員たちはHowardの役員不適格を挙証すべく一計を案じる。 ◆ Love, Time, Death. Let's begin there. 「広告の哲学者」と紹介されたHawardは〝広告は人への伝え方が全て。「愛」「時間」「死」の三要素こそが、地球上の全ての人間を繋げる共通認識である。〟と説きます。 〝愛を渇望し、時間を惜しみ、死を恐れる。〟 最愛の娘を喪ったことで生きる希望を無くしてしまった彼は、自身の演説とは正反対の生き方をしていました。愛を忘れて、ただいたずらに時間を浪費するだけの日々。車道を自転車で逆走する死を顧みない危険な行為にも及んでいました。かけがえのない友人であった同僚たちの声も、今の彼にはもう届いていません。 ◆ What if Love, Time and Death show up in person and answer the letters that Howard's been writing to them? Hawardは「愛」「時間」「死」の各概念に宛てて恨み辛みのこもった手紙を投函します。彼の議決権行使能力の存否を調査しようとする役員たちは、「愛」「時間」「死」に扮した役者を用意して手紙の返事をさせることを考えます。一般常識の世界で対話が出来ないのであれば、彼の世界でアクションを起こして反応を見ようと。 クリスマスをテーマにした世界的に有名な作品『クリスマス・キャロル』。同作では強欲な初老の商人Scroogeが「過去」「現在」「未来」の精霊たちとのコンタクトを通じて、頑なになっていた心を改める物語です。 本作のHawardも元々バリバリのビジネスマン。自らの殻に閉じこもってしまった彼の前に「愛」「時間」「死」が現れるというプロットは、さながら現代風に解釈した『クリスマス・キャロル』の様でした。夫婦愛のエッセンスも加えられており、挫折からの再起を描く、ベタですが感動のホリデームービーに仕上がっています。 ◆ I'm obviously not in the right state of mind. Maybe none of us are. ーYou think I haven't noticed? 今作が非常に秀逸だと感じたのは、物語の後半からその焦点が変わる部分。前半部分は心を病んでいたHawardに焦点を絞っていましたが、後半は彼の関係者へとその射程が広がっていきます。 ︎︎︎︎︎︎☑︎ Love as Amy(Keira Knightley) 自らの殻に閉じこもってしまったHawardに役者をあてがう今回の作戦は、彼女が会社でWhit(Edward Norton)に接触した事がきっかけでした。Whitは自らの浮気が原因で離婚をしており、その結果、一人娘からの愛を無くしていました。Amyは何故か彼に娘がいることを知っていて、仲直りすることを勧めます。 ︎︎︎︎︎︎☑︎ Time as Raffi(Jacob Latimore) 会社に身を捧げてきたClaire(Kate Winslet)は家庭を持ちませんでした。精子バンクの利用を考えていますが、出産可能な年齢の壁が迫ってきていることを悩んでいます。そんな彼女に、Raffiは血が繋がっていなくても家族になれることを諭します。 ︎︎︎︎︎︎☑︎ Death as Brigitte(Helen Mirren) 末期癌に侵されたSimon(Michael Pena)は、妻子に自らの余命が迫っていることを伝えられていません。Brigitteはそんな彼に寄り添い、さりげなく最期の時を迎える手助けをします。Madeleine(Naomie Harris)が娘を亡くした瞬間にそっと語りかけてきたのも彼女でした。 「愛」「時間」「死」それぞれの概念を演じた役者たちは、Hawardのみならず助けを必要としていた人に寄り添っていました。三人の不思議な役者たちは、Haward、Whit、Claire、SimonそしてMadeleineという限られた(助けを必要としている)相手としか会話をしていません。 受難を取り払うことは出来ない。無かったことにも出来ない。されど道に迷ってしまった子羊に優しく寄り添うことは出来る。前に向かって歩き始めたHawardを温かく見守るラストシーンの姿は、まるで守護天使の様でした。 〝Just be sure to notice the collateral beauty. 〟