他人の器になるのは、もうたくさんなんです。
※本文にネタバレがあります ネタバレを読む
この映画、賛否両論でしょうね。うん、解かります。これ、言葉のトリックで、勝ちにこだわる弁護士とか、強盗殺人とか、それに惑わされてしまうと、本当に映画が言っている事に辿り着けないんです。裁判とか、法廷とか、そんな事は関係無く、これ、人の考え方は人それぞれなんだって事なんですよ。裁判で被告となる男の真実なんて関係無いんです。その周りに居る人々や、それを外から見ているマスコミや、マスコミを通して見ている一般の人々が、どう考えるかによって、全く見方が違うんだよっていう事なんです。真実はどうだって良い。殺してようが、殺していまいが、どーでも良いんです。 そして、三隅は「生きる価値の無い人間がいる」と言いますが、それって、誰でもない、自分の事なんです。それは、酷い罪を犯した人間だというだけでは無く、自分で自分として生きられない、人の器となるばかりで自分の意志で生きてくることが出来なかった男の悲しい訴えなんです。本当は娘と暮したかっただろうし、幸せに生きたかったんです。 殺された社長は、家族も居て、会社も経営して、表向きは素晴らしい人間に見えたかもしれないけど、食品偽装はしているし、前科者を雇って経費を浮かし、娘を欲望のはけ口にして、社長の妻は、そんな夫の罪を見て見ぬふりをしている。 法廷では、三隅が罪人ですが、本当は誰が罪人なんでしょう。手を下した人間か、見て見ぬふりをした人間か。そしてそれを勝手に解釈して、1つの事件だからと受け流している裁判関係者か。そうです、誰も、三隅の真実なんてどーでも良いんです。辻褄を合わせて、自分の思い通りの物語が作れれば良い。誰もが、三隅なんて人間を必要としない、生きている価値の無い人間とみなしているんです。 凄い映画だと思いませんか?三度目の殺人は、裁判を見ている人々が犯している罪なんです。三隅は、自分でその方向に結末を向けさせたけど、手を下したのは、裁判官であり、検察であり、弁護士であり、証人であり、マスコミであり、その裁判を見ていた一般人なんです。真実など関係無い。誰もが利己的であり、そこに愛なんて無いんです。 社長の娘だけが、無垢な心で真実を話そうとするのですが、三隅はそれを望みません。ここから本当のネタバレになります。 三隅は社長を殺したと思います。もちろん、娘がレイプを受けていたからです。その上、前科者を雇って利益をむさぼり、食品偽装を行っていて、何処までも自分の欲望だけを追求した人間だったからです。妻に頼まれたと話したのは、娘がレイプされているのを知っているにも関わらず、見ない振りをしていたからです。十字架なのは、裁きです。そして、最後に自分は殺人をしていないと言ったのは、娘を助ける為と、自分が死ぬため。娘がレイプを告白してしまったら、その後の社会生活が出来なくなるでしょ。 三隅は、もう、死にたかったのだと思います。誰かの器として、周りの人間の勝手な考え方で理解されたと思われるのにうんざりして、疲れたのだと思います。最初の殺人だって、結局、酷い取り立て屋を殺したのは、みんなが苦しめられていたから、その為に代表で殺したみたいな思われ方をして、情状酌量で懲役刑になった訳でしょ。真実は、違ったかも知れないのに、勝手な思い込みで減刑されて生きている。きっと、三隅の真実の言葉なんて誰も聞かなかったのだと思います。 そんな社会に絶望して、死を望み、そうなるようにワザと殺人を否認に転じて、情状酌量の余地を持たせなくしたのだと思いました。 おおー、ガッツリ、ネタバレを書いてしまった。だって、殺人犯の話じゃないのに、犯人は誰とかって話になっていて、イヤになっちゃったんだもん。こんなにスゴイ内容を訴えているのに、理解してあげなかったら勿体無い。凄い社会問題でしょ。人間の根本に関わる話なのに、惑わされないで欲しい。 ちなみに、勝ちにこだわる弁護士って、悪い事じゃないですよ。仕事なんだから、勝ちにこだわるのは当たり前。こだわらない弁護士なんて必要ありません。重盛は素晴らしい弁護士です。でもね、この三隅に関しては、関わってはいけない人だった。三隅を切り捨てられる、機械的な弁護士でないと、彼に飲み込まれて、この後、弁護の仕事が怖くなるかも知れない。途中で助けてあげたくなりました。 福山さんも、役所さんも、マジで凄かった。その他の共演者の方々も、凄かったですよ。やっぱり是枝監督作品、スゴいわぁ~。好きだわぁ~。グイグイ来るもんね。邦画としては、ここ最近では一番かな。これはシンドイ映画でした。でも、凄いです。これ、出来るだけ、皆さんに理解して欲しいなぁ。理解出来ると、TVでやっている事件全てが、違って見えて来ると思います。あ、不倫問題もね。ゴメン、一言、斉藤由貴さん、不倫で叩かれているけど、演技は上手いと思いました。悪い事をしたかも知れないけど、彼女の仕事まで酷いと言わないで欲しい。勿体無いです。もっと良い演技を見せて欲しい。 私は、この映画、超!超!超!お薦めしたいと思います。賛否が分かれていて、深い理解が出来ない方もいらっしゃるかも知れませんが、少しでも、理解してくださったら嬉しいです。人間とは、社会とは、と考えてみて欲しいです。ぜひ、観に行ってみて下さい。