それぞれの"生きる"と"守る"の形
それぞれの"生きる"と"守る"形 正直観終わった直後はバイオレンスとエロの 分かりやすくも薄い味のオブラートに まんまとやられて「ふーん、こんなもんか」と ペラい印象だったのですが…。 映画館を出てから駅へ向かう道すがら 改めて映画の冒頭… 続きを読む
それぞれの"生きる"と"守る"形 正直観終わった直後はバイオレンスとエロの 分かりやすくも薄い味のオブラートに まんまとやられて「ふーん、こんなもんか」と ペラい印象だったのですが…。 映画館を出てから駅へ向かう道すがら 改めて映画の冒頭から内容を思い出し 一つ一つを頭の中でなぞっていくと ふと、ある大巨匠による 過去の超大作映画の持つ プロットがこの映画にやたらと ダブって思えてきてしまった。 これはかなりの異論を承知で書くのですけど その映画とは誰あろう黒澤明監督の 「乱」だったりする。 どちらの映画にも3人という思いの違う兄弟が それぞれの持つ考えや信条に 時に忠実に、時に翻弄され(特に他者によって) それでも自らが生きる道を、自らの手で選び 指し示していかなければならないということを 描いているように思う。 で、この映画『ビジランテ』。 確かに親の存在が早々に退場してしまったり、 あるいは長男までもが退場したりして 細かいことを言えば当然 『乱』とは違うわけなのだが、 それでも三人がそれぞれ 自分達が生きるために信じるべきものを 守って生きて行こうとする姿勢が 描かれているのには変わりがない。 (スケールは比べ物にならないけど) 親が死を迎えた時に何十年と行方不明だったが ふらりと帰ってきただけならまだしも 長男としての遺産相続権を当然のように要求し 先祖伝来の土地を守ろうとする長男・一郎(大森南朋)。 市議会議員となり、権力志向が強い妻に 毎日たしなめられながらも、真面目一辺倒に これまで築きあげてきた地位を守ることで 生きていこうとする次男・二郎(鈴木浩介)。 出張風俗のマネージャーの仕事をしつつ 生きるために底辺でもがく女の子と暮らし 自らも同じような立場でありながら 他者を守るという義の心を守って 生きていこうとする三男・三郎(桐谷健太)。 三人の思惑がそれぞれを理解しないまま空回りし やがてそれが取り返しのつかない事件に発展し 蟻地獄のように彼らを絡め取っていってしまう。 そんな中でも、三郎は二人の兄に対して 「三人で飯食おう(そしたら分かり合える)」 「アニキを助けてやってくれよ」 「遺産とかよりもっと大事なことがある」 と幾度となく呼びかけ、絆を取り戻させようと 諦めずに必死になって説得を続けるのだが どうしてもその想いは届かない。 そうして、三郎自身は満身創痍になりながら それでも人を助けたいと思い、願いながら 自らの信条に逆らわずに行動し続けてしまう。 それがとんでもない結果に繋がってしまうことを 彼は確実に知っていただろうに。 観客としてはとにかく三男の三郎に 肩入れして見てしまうわけなのだけど その正義感から比べると、まぁ次男の二郎は とんでもなく、とてつもないほどに無力。 でもきっと、この二郎こそが 小生を含めた"普通の人"の姿なんだろうな と思わないでもない。 逆に長男の一郎はといえば、 信条や心情にどうしても寄り添うことができず はたまた本当にこいつが一郎本人なのかも 最後まで分からずじまいで孤高な位置付け。 (人間のクズなのは確かなのだが) 結局、一郎が突如帰ってきたりしなければ この悲劇は起こらなかったのでは、と思えば 最悪のトラブルメーカーは一郎な訳だが それは死者となった三人の父親が 死してなお送り込んだ怨念が 形となって一郎に乗り移ったのではないか。 そうじゃなきゃ、あんなタイミングで 帰って来ないよ。 しかも、それが証拠に序盤に三郎が一郎を 一瞬かつての親父と見間違えるシーンがある。 それはでも、過去の経験が蘇ったことによる 見間違えという意味だけではなく 図らずも三郎が真理を見抜いた瞬間が 描かれていたのではなかろうか。 三者三様のピカイチの演技が光る上、 エロにバイオレンス、 さらには人種間の排他的な問題をも 取り込んで描かれる 振り返るとやたらと消化に悪い(いい意味で) 小生の2017年最後を飾る2時間でありました。 いやー、まだ胃が重たいw [10:50]テアトル新宿 :おまけ 〔パンフレット評:☆3.0〕A4判・全24頁|¥720 まず手に取っての第一印象は、率直に言って「薄い」です。中身も基本的な体裁でありながらも、映画全編をくまなく網羅したような形ではなく、監督及び主演3人のインタビューが中心の構成。小生はインタビューはもちろん好きですが、劇中シーンの画像をどれだけ切り取って載せてくれているかというめんをかなり重要視しています。断片的でもいいからシーンの数々が所狭しと並んでいてくれると、あとから内容を思い出す時にすごく有難いので。でも、このパンフはどうやらそんなサービス精神らしいところは微塵もなく、冒頭のインデビュー以外はスタッフ紹介とエッセイ(松崎武雄氏)が一本と内容も少なめ。例えばよくある舞台も見取り図や地域の全体図といった要素もなく、完全に"読み物"に徹してます(ま、"撤する"って聞こえがいい言葉ですが)。ただ、このパンフで唯一特筆すべき点があるとすれば、入江悠監督によるインタビューとは別の「オリジナルの映画を作るということ」と題されたコラムがあること。完成に向かうまでのさまざまな苦労や苦悩が赤裸々に文章にされていて、非常に感銘を受けました。このコラムを読むためだけでも¥720を払う価値あり!…と大々的に言えるほどでもないのですが、それでも楽しめました。なので、逆に言えば『ビジランテ』にどっぷりとハマってしまった方以外にはあまり購入をオススメできないかも、です。値段がもう百円安かったらこんな文句もないんだけどなぁ。